【スポーツ通訳者】通訳が必要ない世界にしたい!人と人を繋げる仕事のプロフェッショナルに聞く”通訳のあり方”とは

スポーツ通訳佐々木真理絵さんサムネイル

今回はスポーツ通訳者やコーディネーターとして活躍されている佐々木真理絵さんにインタビューをさせていただきました。

「通訳」は表面だけを見ると「言葉を訳す」ことがお仕事ですが実はそうではありません。通訳は人口知能では補えない人の感情、解釈が必要となる、人にしかできない仕事。更に言うと十人十色の色が表れる素敵な仕事。

だからこそ、AI自動翻訳ツールが発達してきた近年でも、通訳者は残り続ける職業なんだと感じました。スポーツ通訳者という枠を越えて、仕事を繋げていく真理恵さんの考え方に基づいた生き方が見えて、通訳者の見方が大きく変わりました。

「通訳者になりたい」「夢はあるけど、”いつか”にして後回しにしている」「社会を変えたい」「人と人のつながりを大切にしたい」
そんな思いを持っている方に是非読んでいただきたいです。

私だからできる仕事がしたくてスポーツ通訳者の道へ

外国人に抱きかかえられる佐々木真理絵

ー真理絵さんはなぜ、スポーツ通訳者の道を目指されたのでしょうか。

佐々木真理絵さん:大学3年の時アメリカへ留学をしたことがきっかけで、『言葉の壁を越えて人と人を結びつける仕事』をしたいと考えるようになりました。そして、同じく大学生の頃所属していたラクロス部での経験から、スポーツ業界で自分が好きな英語を使いながら仕事ができたらと夢を持つようになりました。

ですが、新卒で入社をした会社は英会話スクール。営業職として毎日飛び込み営業をしていました。英語は一切使わず、日本語で英会話スクールの説明をひたすら繰り返す毎日です。自分なりに将来を考え、営業職に就きましたが、「この仕事って私じゃなくても良いよな」という気持ちがどんどん大きくなっていったんです。そして、26歳で退職を決意しました。

その後、かつての夢を叶えるためにスポーツ通訳の募集をしているスポーツチームに履歴書を送ったんです。

 

ー前職を辞めて通訳者になるにあたって、迷いや不安はなかったのでしょうか。

佐々木真理絵さん:もちろんありました!とても怖かったのを覚えています。まず、会社を辞めるという行為自体に勇気が必要でしたし、「勢いで辞めるけど、そうしたところでこの先どうなるんだろう」という不安もありました。スポーツや英語が特別得意なわけでもないので、スポーツ業界に絶対に入れるという確信はないですし、挑戦した結果向いてなかったらその先のキャリアは全く見えませんでした。本当に無鉄砲だったなと思います(笑)

ですが、あの時踏み出していなかったら「いつか」をずっと「いつか」のままにしていたと思んです。後先考えないで飛び込むことが必ずしも正しいとは思いませんが、私は行動して今のキャリアを掴み取りました。

 

ースポーツ通訳者の求人に応募した結果はどうなったのでしょうか。

佐々木真理絵さん:履歴書を送った1週間後くらいに連絡を頂き、面接をしました。英語はほとんど話せませんでしたが、このチャンスを逃したらまた惰性で仕事をする毎日が待っていると思うと、何がなんでも通訳になるという夢を叶えなきゃと。

その熱意が伝わったのか、面接で英語力をチェックされた後、「正直今の英語力じゃスポーツ通訳は出来ない。ただ、やりたい気持ちがあるならまずはマネージャー業務をしっかりとやってもらいながら英語の部分は勉強していってほしい。」と言われ次の練習に参加する事が決まったんです。その後、無事に入団が決まりました

 

母国語のアップデートも必要

外国人と佐々木真理絵さんの集合写真

日本語を英語にするのと、英語を日本語にするのとではどちらのほうが難しいと感じますか?

佐々木真理絵さん:日本語を英語に訳すことですね。やはり英語は母国語ではないので、そもそものボキャブラリーが圧倒的に少ないんです。そして日本語には抽象的な表現が多いので、例えば「ちゃんとやって」っいう言葉を通訳する時、何を?ってなっちゃうんです(笑)

主語も省略することが多いので、結局聞き直さなきゃいけなかったりとか、どういうポイントに置いてその発言をしてるのかがとても分かりにくい言語なんです。

 

ー英語力を上達させるために日々意識していることはありますか?

佐々木真理絵さん:「〜のレベルまでいきたい!」などと言語化するのはとても難しいですが、終わりはないと思っています(笑)日本語と同じように方言もあるので、学べば学ぶほど「え!こんな言い方もあるの?」と日々アップデートされていきます。大変ですが、それが面白さでもありますよね。モチベーションを保つことや好きでい続けることってとても大事だと思うんです。「勉強する」という感覚になると、どうしても嫌になってしまうので、いかに楽しく学べるかを常に意識しています。

そして、英語を学べば学ぶほど、日本語も足りていないと気づくんです。日本語をパって言われた時に、言葉の意味がわからないこともたまに起きます(笑)なので、母国語じゃない英語の勉強に重点を置きつつ、日本語の本を読んだりと、日本語にも日々触れるよう意識しています。

チームメイトと写真を撮る佐々木真理絵

ー通訳は、待ったなしのやり直しのきかないプレッシャーの大きな仕事という印象がありますが、失敗した時の切り替え方やモチベーションの保ち方で意識していることはありますか?

佐々木真理絵さん:そうですね。やっぱり凹むんです間違えると。ただ、スポーツ通訳者として何年もやっていると、他の通訳さんとも関わりを持つようになり、スポーツ業界以外の通訳とも話せる機会ができます。そのコミュニティでお話を聞くと、みんなとんでもない大失敗をして乗り越えてきてるんですよ。

「失敗はする。通訳は、瞬間瞬間で訳していくから間違えるし、空気を読まなきゃいけないこともある。そうやって色々なことを同時に処理するので常に100%は無理だよ」と皆口を揃えて言うんです。若い頃にみんないっぱい失敗して凹んでどんどん修正していくことでキャリアを築いているので、凹んだ時は「あの通訳の方も失敗したし」って、他人のとんでもない失敗を思い出して持ち直すこともあります(笑)そして時には「どうごまかすか」というテクニックも必要になります。失敗した時やわからない単語が出た時に、ニュアンスでカバーをして、いかにその場を逃げ切るか。言葉にするとあまり良いイメージは無いですが、通訳者になるにあたって必要なスキルだと思いますね。

 

通訳の役割は、通訳が居なくても成り立つ状態にすること

友達と佐々木真理絵の集合写真

ー通訳やっている人の母数は多いのでしょうか。

佐々木真理絵さん:スポーツ通訳者に関しては、特に資格はいらない職業なんです。ですが、基本的に通訳者の人は足りていません。ただ英語が喋れれば良いわけではなくて、スポーツの知識もあったほうがいいですし、あとは人柄やコミュニケーション能力も重要視されます。通訳者は誰でもなれる職業ではないですね。人が足りないからと言って、スポーツチーム側も誰でもいいわけじゃないんです。チームの情報を漏らすことはご法度なので、1人のスポーツ通訳者が複数のチームに所属することも不可能です。だからこそスポーツ通訳の業界はとても悪循環なんです。足りないけど適任がいないという課題を長年抱えています。

 

ースポーツ通訳者になりたいと考える未経験者は、どうやって通訳の経験を積むのでしょうか。

佐々木真理絵さん:確かに通訳経験者のほうが優遇はされるかもしれません。しかし未経験の方が全くチャンスがないわけでもないんです。通訳者の求人の見つけ方としては、意外とスポーツチームからWEBサイトなどを通して広報の通訳者募集のお知らせが出てたりするので、タイミングが合えば応募も可能です。そして、基本的に同じスポーツ業界であれば、一回業界に入ってしまうとオファーをもらえることが多いです。実際私も最初大阪のチームに履歴書を送って採用されましたが、その後はオファーを貰って別のチームに通訳者として入リました。未経験でも、私みたいに履歴書を出して気に入ってもらえれば採用というパターンも割とあると思います。

ただ、スポーツによって需要が変わる部分もあります。例えば競技者がすごく少ないスポーツだと、あまり積極的に通訳の募集はしていないです。バレーボールなど、プロスポーツチームとされる実業団のチームは、すでに採用ルートが決まっていたりするので、スポーツの特色によって変わってくるかなと思います。

 

ー「この通訳の人と一緒に仕事をしたい」と思ってもらえるために、常に意識していることはありますか?

佐々木真理絵さん:素直で居続けることです。私がスポーツ通訳者として最初に所属したスポーツチームはバスケットボールでしたが、バスケなんて体育の授業でしかしたことがないし、バスケ用語もルールも全く分かりませんでした。

なので、通訳者になれた時は正直に「スポーツの知識はないし、時間もかかるけど、勉強していく」ということを伝えましたね。その分、コミュニケーションの量を増やし、選手が不自由なく暮らせるように日々の生活のサポートにも力を注ぐことを意識していました。競技の知識もあって英語が話せる通訳者は、もちろんその長所をアピールしたほうがいいと思いますが、チームによって求めている通訳者の人物像は違ってきます。両者がミスマッチのないように、正直に自分がどんな人かを伝えることは大切ですね。

 

ースポーツ通訳って英語力だけではなく、スポーツチームに馴染めるかなどの「人間性」がとても重要になるんですね。真理絵さんが思うスポーツ通訳者の「役割責任」とはなんでしょうか。

佐々木真理絵さん:基本的に通訳の役割は変に「足し引き」をせずに、正しく伝えることですが、それ以前にチームが目標としている「試合に勝つ」ことに繋がるサポートをすることが大事だと考えています。サポートしながら一緒に過ごすことが回り回ってチームの勝利に繋がると信じています。

ですが、私はその中で「正確に訳す」ことが本当に正しいことなのかという葛藤があります。汚い言葉や、選手が傷つくだろう言葉を本当にそのまま訳してよいのか。通訳という肩書だけで見ると違うニュアンスで伝えるっていうことは良くないと思いますが、結果的にそれが回り回って選手のモチベーションが向上して、試合に勝てるのであれば間違ってることではないと思うんです。私が通訳として今後仕事をしていくのであれば、正しさよりも、訳す現場含め、周りの人間関係に気づいてあげられるような、そんな働き方をしていきたいです。

なので、究極はスポーツ通訳者の私が居なくてもコミュニケーションが取れることが私のスポーツ通訳者としての役割だと考えています。

外国人に囲まれる佐々木真理絵

ー色んな方向の要素が繋がって通訳という仕事が成り立っているからこそ、全部疎かにできないんだなと思いました。人手不足が課題となっている中で、「こういう通訳者に来て欲しい、私の周りはこういう通訳者が多い」という理想像や通訳者に共通している点はありますか?

佐々木真理絵さん:あくまでも私が好む通訳像になりますが、人と人のつながりを大切にしている方や、「スポーツ通訳」という仕事の役割を広い視野で捉えられる方と一緒に働きたいです。ただ、この考えが正解かどうか判断しづらいこともあります。「なんでもやってあげたい」という考えが「スポーツ通訳の価値を落とす」ことにも繋がってしまうんです。コート外で何でもしてあげることって、基本的な通訳者の仕事の枠を越えてしまっているんですよね、給料以上のことをやっているとなると、「これくらいの金額を出しておけば通訳者の人は何でもやってくれるでしょ」というイメージが継いてしまうんです。だからこそ通訳者として「しっかりと線引きを意識すること」もある意味とても大事なんです。

通訳者は理想と現実のギャップがあるので答えになっていないかもしれませんが、スポーツ通訳者の私が求める人物像は選手がストレスなく過ごせるように、人生の一部になるくらいまでサポートしてあげられる通訳者さんですね。さらに言えば、色々な考えがある中で、スポーツチームや業界や自分とうまく気持ちのすり合わせができる、柔軟な考えを持っている通訳者さんに来ていただきたいです。

 

ースポーツ通訳者として、取り組んでいくべき課題はありますか?

佐々木真理絵さん:とても大きな話になりますが、日本の語学に対する教育のスピードを上げていきたいです。これは通訳者として日本に居ながら英語や外国の方に触れる機会があるからこそ気づいた課題ですね。スポーツ業界が特に浮き彫りになっていると感じます。

外国人選手が日本に来て、日本人の人が英語が話せないからこそ、私の仕事が成り立っていますが、それってとても悲しいなと感じています。どれだけ英語が話せる言語になってても、日本って語学に対する教育が遅れていますよね。文化的背景が関わる話なので、仕方がない部分もありますが、はるか昔から他の国はシフトチェンジをして母国語と英語が話せるのが割とスタンダードになっているのに、日本は全体の割合で見るとまだまだです。

同じスポーツチームで数年時間をともにすることって、とても貴重な経験なのに意思疎通ができないという現実はとても悲しいです。だからこそ、スポーツ通訳の私が目指す未来は、通訳というポジションがなくても皆不自由なく意思疎通ができてコミュニケーションが取れる環境づくりです。

 

人との繋がりをサポートする

スキー場にいる佐々木真理絵

ー今はスポーツ通訳者としてではなくフリーランスとして活動しているんですよね?

佐々木真理絵さん:そうですね、フリーランス通訳者としての活動は今年で4年目になります。フリーランス通訳になってからはコーディネーターの仕事をメインで行っています。他にも、スポーツ通訳者として毎年一回クロアチアでトーナメントの大会を企画して、そこに日本人選手を連れて行ったり、通訳以外にも翻訳のお仕事もしています。

チームに属して働くことをやめた理由は自分のキャリアが広がっていくイメージがつかなかったからです。もちろん通訳のスキルは上がっていきますが、私は「訳す」以外にも、人との繋がりをサポートすることにやりがいを感じていたので、一つのスポーツに限らず幅広く、仕事内容も色んな方向から考えながら接していける「フリーランス通訳者」の道を選びました。一人で働くという面でしんどさもありますが、今の働き方は私にとても合っていると感じます。将来は、通訳派遣会社をやってみたいです。自分が良いなと思った求職者と、こんな人が欲しいと募集を出しているスポーツチームをマッチングさせて、長年のスポーツ通訳業界の課題を解決させるために動いていきたいです。そのためにも、今まではスポーツ業界だけだったんですけど、これからはスポーツ業界以外の面で、もう少し社会の動きがわかるようなお仕事や勉強をしつつ、自分の活動の幅を広げていきたいなと思っています。やってみたいことはたくさんあるので、「フリーランス通訳者」は、その夢を形にするための新しい挑戦ですね。

 

ー通訳者を目指す方へ、最後にメッセージください。

佐々木真理絵さん:「通訳」って、とてつもないキャリアを積んでいる人しかなれないイメージや、お堅いイメージを持たれがちですが、思っている以上に通訳者って普通なんです(笑)

英語が完璧に話せなければ通訳を仕事にはできないんだと悩む人も居ると思いますが、例えば私なんてスポーツ通訳の業界に入るときなんて、ほとんど英語が話せませんでした。バイリンガルの方や日本人だけど母国語が英語の方などは、逆に日本語に対するコンプレックスを持っている方も居るんです。

今のキャリアまで上り詰めるための努力は大変でしたが、通訳の夢を諦めるのは早いと思います。業界によって必要なスキルも変わっていきます。だからこそ、「私の英語力じゃ通訳者になるのは無理だ」とならずに、「私は英語が好きで、将来通訳者になりたいという夢があるんだ!」と、手を上げれば必ず道は開けます。「通訳」という職業に限らず、そういう気持ちを大切にして長所を生かして、叶える努力を続けてほしいです。

私は今、通訳というキャリア以外にも新しいビジネスに挑戦しようとしています。民泊をしたくて。スポーツチームが遠征時などに利用する施設として、観光に来た海外の方に向けて。まだまだ形にはなっていませんが私もまた、皆さんと同じ「夢追い人」です。

***

今回はスポーツ通訳者として活躍している佐々木真理絵さんにインタビューを行いました!

一度は諦めた「英語を使ってスポーツに関わる仕事がしたい」という夢。

夢を諦めて今違う仕事をしている人はたくさんいるのではないでしょうか。私もその一人です。「いつか」を待つのではなく、不完全でも挑戦してみる。諦めるのはちょっとかじったあとでも良い。良い意味で夢に挑戦するハードルを下げてくれるような、そんな熱いお話をスポーツ通訳者の佐々木真理絵さんから沢山お聞きできました。

仕事の中身を知ると楽しくなります。表面だけで終わらず意識してみると面白い職業って多分世の中にまだまだあります。
これからもshabellbaseではたくさんのキャリアや生き方を取り上げていきます!

 

佐々木真理絵さん
ささき まりえ|スポーツ通訳者


1987年生まれ。京都在住。大学時代に経験したラクロス部と留学がきっかけで「スポーツ通訳者」を目指す。
【経歴】
2013-2014年 bjリーグ大阪エヴェッサ マネージャー兼通訳
2014-2016年 bjリーグ京都ハンナリーズ マネージャー
2016-2018年 Vリーグパナソニックパンサーズ 通訳
2018年 世界バレー トリニダード・トバゴ女子代表通訳
2019年 ワールドカップバレー オランダ代表女子通訳
2021年 スキークロスFISカップ ヨーロッパ遠征帯同

note:https://note.com/sakimari8

 

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