2022年の出生数が、ついに80万人を下回ったというニュースがありましたね。
少子化問題は一層深刻になってきていて、大学生のライターとしては、目をつぶってもおけない問題です。でも、経験したことのない出産や育児ってとても不安に思いますよね。
今回取材させていただいたのは、開業助産師としてリエ助産院や一般社団法人U-me(ウーミー)の代表を務める望月里恵さん。
前回の取材は約1年前でした。(気になる方はこちらをチェック)
あれから、どんな発見や変化があったのか、これから何を目指すのか、ひろば型子育て支援施設の現場から、教えていただきます。
子育ては地域でやるものだから
ーまずは、U-me-cafeの現状について教えてください!
望月里恵さん:主に、生後2ヶ月ぐらいから3歳になるまでのお子さんと、その親御さんがいらっしゃっています。あと、助産師としてマタ二ティ向けの教室もしているので、そういうクラスがある時は、妊婦さんがいらっしゃることもあります。
年度末に集計したところ、昨年度は、U-me-cafeに実際にお越しになった方だけでのべ4000人弱、オンラインの方も含めると4000人を超える親子に利用していただきました。
リピートしてくださる方も、時々思い出したように来てくださる方も、1度だけの方もいらっしゃいますが、常連さんが増えてきましたね。
ーオープンから約1年半経って、どのように感じていますか?
望月里恵さん:元々私は地域で助産師として働いてたので、大きなギャップはなかったですが、継続してその場所があることの意味をすごく感じてます。
例えば、4月って保育園に行き始めたりするので、入れ替わりの時期なんですね。それで、しばらく来なかった親子がすごく久しぶりに来た時に、スタッフが「○○ちゃん久しぶり」って声をかけたり、お母さんも「ずっと顔出したかったんです」って言ってくれたりということがありました。U-me-cafeそのものが、親子にとって安心して来れる場所に地域の中でなってきたと感じて、決まった場所にあることの良さを実感しています。
ー今までに印象的だったことを教えてください。
望月里恵さん:まずは、そういうふうに継続する関係性が、スタッフさんと利用者さんの間に出てきたことがすごく嬉しいです。
あとは、助産師さんのスタッフが増えたので、月に1回体重とかを助産師に相談できる日を作りました。すると、 普段はU-me-cafeに遊びに来ないけど、悩んでるお母さんとかが来てくれるようになりました。あるいは、同じ大阪市中央区の中で、別の広場や区役所、保育園といった繋がりのある施設から、「あそこに行ったら助産師さんがいるから、体重のこととかおっぱいのことは相談に行ったらいいよ」と紹介されて来てくださる方も増えています。そういう風に、地域の中で助産師ができる役割として新しい形が生まれ始めてきていて、それがすごくいいと感じています。
ー地域との繋がりが深まっていくことが嬉しいんですね。それはどうしてですか?
望月里恵さん:育児っていうのは地域でやるものなんです。病院助産師として病棟に勤めていた頃は、サポートできるのは病院内だけで終わりでしたが、子育てって生活で、その生活をするのは地域なんですね。
学生さんとか、独身の時って、地域のことをあまり意識しないと思います。でも、一旦子育てを始めると、行政のサービスを受けたり、保育園も小学校も行くので、地域と繋がらざるを得なくなってくるんです。例えば皆さんは、学校や会社といった組織に属して、勉強や仕事をしますよね。でも子育てをしている人は、情報交換する人や教わる場所、仲間を地域の中で、自分で見つけないといけないんです。オンラインでのサポートもありますが、地域でリアルの場所で体験できることとか、見たり聞いたりできること、繋がれることで得られることって、圧倒的に情報量が違います。
地域と親子がどれぐらい繋がるかっていうのが、子育てにとって大切なことなんですよね。
ーなるほど…ご自身の子育ての時はどうでしたか?
望月里恵さん:1人目の時は区役所に行って子育て支援のいろんな教室に参加したり、親たちの交流の場に参加して、ママ友を作ったりしていました。そのママたちとは今でも交流が続いていますし、育児をしてる中で、これどうやってる、あれどうやってる、みたいな感じの話を毎日LINEでしてましたね。
2人目の時は、同じ保育園に通うすぐ近所で育児をしているお母さんたちと一緒に、毎日公園に行ってました。公園に行って、本当にくだらない、取り留めのない話をできる時間が、自分にとってすごく癒しでしたね。
子どもはとっても可愛いし、お世話も楽しいんだけど、育児中って大人と喋ることがなくなるんです。夫が帰ってきても、仕事で疲れていたりして、全部は聞いてもらえなかったり、共感してもらえなかったりします。でも、同じく育児をしていて、同じ状況にある人とだったら、もう共感しかないんです。喋れて、共感し合える仲間がいることの大切さは、子育てをしてから気づきましたね。
それまでは、ママ友とかいらないしっていう気持ちで、公園とかマンションの前でずっとお喋りしているお母さんたちを見ると、何をそんなに喋ってるのかなって不思議に感じていたんですけど、 実際自分がその立場になったら、その時間や関係性がどれだけ大切かっていうことに気づきました。そういう場所の必要性を感じたので、それを作れていることをすごくうれしく思っています。
ーU-me-cafeのスタッフさんには、助産師資格を持った方が多く在籍しているのはなぜですか?また、そのメリットってなんでしょう?
望月里恵さん:実は意図的に増やしたわけではないんです(笑)私が助産師なので、その繋がりもあって、気づけば助産師が多くいる場所になりました。
助産師さんって地域で働きたいって思ってらっしゃる方が多いんだと思います。親子の役に立ちたい、力になりたいっていう思いが強くあって、活動の場を探してる方が結構いらっしゃったようです。
施設に助産師がいることのメリットは、助産師は産前産後の専門家である点だと思います。保育士さんは、大抵生後6ヶ月以降からの子どもを見ていますが、助産師は特に妊娠期から離乳までの期間の知識を多く持っています。なので、0歳児のことに関しては、助産師の方が専門的な知識を多く持っていますし、 医療職なので医学的な知識もあります。
保育士さんは保育分野の知識と経験がありますが、それとはちょっと違った視点で、生後すぐから1歳ぐらいまでのお子さんに関して、重点的に見ることができるっていうのは、今感じている一番いいところです。
ーいまU-me-cafeの課題だと感じていることはありますか?
望月里恵さん:元々は、私が全部オペレーションをするような形で運営をしていたんですが、これからはスタッフさんたちに、自分たちのU-me-cafeだと思ってもらいたいと考えていて、私がちょっとずつ手を離していかないといけない時期だと思ってます。なので、スタッフさんにどうやって楽しく自主的に働いてもらうかっていうところは、これからの課題です。
また、子育て中のスタッフさんも多いので、休まないといけない時とかが出てきたときにそのサポートをうまくやっていけるようにしたいと思っています。スタッフ同士でカバーし合うのも大事ですが、地域から、子育てが少し落ち着いたボランティアさんに来ていただいて、1人休んでも運営できる体制を作れたらいいなと考えてます。これは、人員不足の問題解決のためだけじゃなく、このように地域の方が、子育て支援拠点に参加する機会を増やして、地域とのつながりを濃くしていきたいという考えからです。
これからの社会では、多様な層で育児をする必要が出てきてると思うんですね。今って、子育て世帯がとても減っていて、子育てに対して理解が少なくて、育児に対してもイメージが湧かない人が増えているんです。それが育児はしんどい、という印象を作っているところもあると思います。産む産まないは個人の自由ではありますが、少子化を止めたいなら、産みたい人が産める社会である必要があります。育児はひとりではできないので、みんなで手を取りながらみんなで育児していく必要があると思うんです。地域全体でU-me-cafeに関わることが、地域全体で育児するという1つの形になったらいいなっていう風に思っていて、地域の方々との繋がりを広げていくような活動をこれからやっていきたいです。
今この瞬間をあるがままに
ーMBSR(マインドフルネスストレス低減法)の日本で初めての講師養成プログラムに参加されたそうですね。まずは、MBSRについて教えていただけますか?
望月里恵さん:MBSRは、マインドフルネスストレス低減法という8週間にわたるプログラムで、ストレスを減らすことを目的に、マインドフルネスの実践をグループワークで行うものです。マインドフルネスというのは、起きていることに振り回されることなく、今この瞬間に起こっている出来事に、ありのままに注意を向けている状態のことをいいます。
例えば今、片手を出して、手のひらの感覚を感じてみてください。何かを感じますよね、では、逆の手を出して感じてみてください。何か感じますか?
ー指の筋が伸びている感じがしますね。
望月里恵さん:そうですね。今、さっき感じていた反対側の手の感覚に気づいてましたか?気づいていないですよね。それが「気づいている」「気づいていない」という状態です。
マインドフルネスというのは、この感覚や、起きていることに気づいている状態のことなんです。今この瞬間、 ありのままに気づきを向けるトレーニングを行うことで、ストレス軽減や集中力アップなどの効果があると言われています。
プログラム自体は、1970年代にアメリカのマサチューセッツ大学の教授が開発したものが世界に広まり、2021年に日本にこの講師育成プログラムが初めて入ってきて、一期生として講師資格を取得しました。
ーもともとMBSRに興味をもったのはどうしてですか?
望月里恵さん:前回のインタビューでも話しましたが、20代半ばでメンタルを崩してしまって、そのときに心理学に興味を持って、いろんなことを実践したんです。瞑想もその1つでした。習慣化までに時間はかかりましたが、続けているうちに、自分の中ではっきりと効果を感じて、助産師としてお産のサポートをする時にも、瞑想がすごく役に立つと思ったんです。自分自身の体に意識を向けるとか、呼吸に意識を向けるとか、そういうことって、お母さんたちにとってもすごく大事だと感じて、助産師として、妊娠・出産・育児中の方に伝えたいと考えるようになりました。
ーどうしてお母さんたちにとって、自分に意識を向けることが効果的なんでしょう?
望月里恵さん:例えばイライラした時、呼吸に意識を向けてみることで、自分自身の怒りが手放せたりするんです。意識の対象を、呼吸や手のひら、足の裏の感覚などに向けることで、それまで振り回されていた感情と距離を取ることができるんですよね。映画を見ているときのように、出来事から少し距離を取って、離れて見れているような視点を持てるんです。
それは陣痛がとても痛い時も同様で、マインドフルな態度を取ることで、その痛みや恐怖と距離を保ち、巻き込まれないことができます。
ー実際に講師育成プログラムを受けてみていかがでしたか?
望月里恵さん:プログラムでは、一年半ほどかけて、オンラインで通訳を介して海外の先生から、マインドフルネスの指導に関することを教えてもらって、それを実際に講師養成プログラムを受けている生徒同士で実践したり、周りの人たちに実践してみたりっていう練習を重ねました。
プログラムを受講して、本当にありのままでいいということを信じられる度合いが、大きく変わりましたね。自分自身のネガティブな部分も逆にポジティブな部分も、すべて含めてありのままの自分でいいんだと思えるようになりました。例えば感情が揺らぐことがあっても、自分が今揺らいでることに気づけることがすごく大切で、今の方がプログラムが始まった時よりも、そうなっているように感じています。揺らいでもいい。完璧じゃなくても良い。それも、まるっと全部ありのままでOKということです。
講師になって、誰かに何かを教えられるようになったということより、自分が実践者であるという感覚が深まったと強く感じています。マインドフルネスをさらに大好きになってもっと深めたいという気持ちです。教えるというよりは皆でマインドフルネス探究の旅をするようなイメージでMBSRを伝えています。
ーマインドフルネスや瞑想は、個人で行うイメージがありましたが、実はそうでもないんですね。
望月里恵さん:そうですね。例えばマインドフルネスの元にあるのは、仏教の座禅の教えですが、仏教でも一緒に仏教を実践する仲間グループを作って、瞑想したり学んだりするんですね。1人で籠ったらそれなりに静かな気持ちにはなれますが、それでは日常生活からかけ離れてしまいます。人間って社会の中で生きてるので、人と人との繋がりが絶対的に必要になるんです。
マインドフルネスでは自分だけじゃなく世界全体と繋がっている感覚を味わう慈悲の瞑想があります。私がU-me-cafeでやってることも人や社会との繋がりなので、結局のところ、大切にしているのは同じことだと感じています。
ー今後、講師資格をどのように活かしていくつもりでしょうか?
望月里恵さん:この秋にオンラインでプログラムを開催する予定をしています。 今後は親子や地域の人たちに向けても、伝えていく機会を作っていきたいと思っています。
伸びてきた芽を育てる段階へ
ー約1年前の取材から、変化した部分はありますか?
望月里恵さん:『生みやすく育てやすく生きやすく』というビジョンなど、基本的なところは変わっていません。ただ、 これまでは種まきの時期でしたが、今は育てていく段階に入ってきていると感じています。今伸びてきている芽がどの方向に行きたいのかなって見守りながら、自分自身も楽しんで育てていきたいですね。
U-me-cafe以外にも、親子が繋がるマルシェっていうコンセプトでマルシェをやったりもしていて、繋がりが少しずつ広がっていって、活動が広場だけでなく地域に広がっている感じがしているので、できた繋がりも育てていきたいです。
ー目標に向かって、着実に前進している感じなんですね!望月さんの新しいことにチャレンジするモチベーションはどこから来ているのでしょう?
望月里恵さん:楽しいこととか、興味があることをすぐやってしまう性格なんです。やってみてから考えようと思うところがあって、中には少しステップを踏んだところで、うまくいかなかったこともあります。でもだからこそ、一歩踏み出してみるまでは早いと思いますね。あとは、応援してくれる人がいることがすごく自分の力になってると思います。
人生って冒険だと思うので、せっかく生まれてきたんだったら、生き切りたい、みたいな思いです(笑)
ー若者に向けてなにかメッセージをお願いします!
望月里恵さん:やってみよう、ですね!
失敗って後から考えて思うことであって、それが成功に繋がってることもあると思うんです。何が成功かなんて死ぬ時までわからないし、人間って不完全なものだから、完璧になろうとなんてしなくていいんです。うまくいったことは続けたらいいし、ダメだなって思うことはやめたらいいし、それでやめた方がいいっていうことを知れるわけです。やらないで、どっちがいいかわからないまま悩んでいるよりも、やってみた方が答えがわかるんですよ。
ー深刻化している少子高齢化ですが、望月さんが思うことはありますか?
望月里恵さん:私は、日本の少子化対策には、ウェルビーイングという視点が抜けてると思うんです。みんなが育児をしんどいものだと思って、そのしんどいものをどうにかしようと思ってるから、育児をしたらどんな幸せがあるのかをイメージしにくくなってるのではないでしょうか。しんどい育児に対しての支援ばかりで、育児の楽しいところが見えにくいから、 マイナスを良くてプラマイゼロにしかできないんです。
でも、育児で目指すのは幸せなんだ、ってその先の幸せが見えたら、ゼロを飛び越えてプラスに転じる力になるかもしれません。今は、あれもこれもしてからじゃないと子供なんて産めない、みたいな感じになって、そうやって色々と積み重ねて、産んでからもしんどくなってしまうことが多いと思いますが、もっと子どもを育てる幸せを感じられる世界になってほしいと思います。
***
今回は、U-me代表でMBSR講師の望月里恵さんにお話を伺いました。
子育てにおける地域との繋がりを実感し、地域全体で行う子育てを目指す望月さんですが、U-me-cafeは着実に、その理想の実現へと向かっているように思います。
マインドフルネスの考え方が妊娠中や育児中のお母さん・お父さんに広まり、地域での育児が広まれば、私たち若い世代の子育ては違ったものになるかもしれません。
また、子育てのいいところが見えていないという指摘も、考えさせられましたね。私たちは損得で考えすぎて、本来の良さを見失っているように思えてきました。
若い世代に新たな視点を与えてくれる望月さんの、これからの活躍が楽しみです!
shabellbaseでは今後も多種多様なキャリアを築く方々を紹介しています。
あなたの夢探しやライフプランに役立つヒントを見つけてみてください。
- 望月里恵さん
もちづき りえ|経営者1981年生まれ。大阪府出身。京都嵯峨芸術大学を修了し、美術学士(建築)取得後、大手印刷会社でアートディレクターを経験。リーマンショックを機に退職し、助産師を目指すことを決意。宝塚大学助産学専攻科を受験し、助産師免許を取得後、産科勤務を経て2020年にリエ助産院を開業。2021年には、一般社団法人U-meを設立し、大阪市の認定を受けた子育て支援施設U-me cafeを開設。『生みやすく育てやすく生きやすく』をさらに追究するために、世界的にスタンダードな科学的根拠に基づいたストレス教育プログラム・MBSR(マインドフルネスストレス低減法)の日本で初めての講師養成プログラムに参加し、講師資格を取得。2023年8月よりMBSR8週間プログラムを提供開始。次回は2023年9月に開催予定。
リエ助産院公式HP:https://riejosanin.com/
※2022年3月から、法人運営と講師資格取得に専念するため、リエ助産院の相談事業は休止中。
U-me-cafe公式HP:https://umisodate.com/
一般社団法人U-me公式HP:https://syncable.biz/associate/U-me/
マインドフルネスストレス低減法(MBSR)8週間プログラム体験会&説明会HP:https://peatix.com/event/3597629/
今回は開業助産師としてリエ助産院や一般社団法人U-me(ウーミー)の代表を務める望月里恵さんにインタビューさせていただきました。コロナ禍で人との繋がりや移動が制限されている近年、日本の“生み育て”環境をアップデートさせることをミ[…]
今回取材をさせていただいたのは、「闘うシングルマザー」の愛称で知られるボクシング第5代・第7代WBO女子世界スーパーフライ級王者の吉田実代選手。昨年5月30日、小沢瑶生選手との“ママ対決”に敗れて世界女王の座を明け渡した吉田実代選手[…]