スタントウーマンとして活躍する坂口茉琴さんにインタビュー!普段は映らない彼女の素顔に迫る!

坂口茉琴

今回は、Netflixドラマ『今際の国のアリス』や映画『キングダム』などの映像作品でスタントウーマン(以下女性スタントマン)、アクションコーディネーターとして活躍されている坂口茉琴さんにインタビューを行いました。

坂口茉琴さんのこれまでのキャリアや、女性スタントマンという仕事との向き合い方についてお伺いすることのできた取材となりました。自分のキャリアに悩みや不安がある方に、是非読んでいただきたい記事となりました。

 

縁から繋がった”女性スタントマン”への道

ロケットランチャーを構える坂口茉琴

幼少期の夢はなんですか?

坂口茉琴さん:小学生の時は、周りのみんなと同じような漠然とした夢を持っていました。
それこそ、パンをいっぱい食べたいからパン屋さんになりたいみたいな感じで(笑)

今の業界につながるようなことが夢ではなかったですね。

 

いつから今の業界に入ろうと思ったんですか?

坂口茉琴さん:高校生から本格的にアクションを始めて、『TOKYO TRIBE』と言う作品で映画デビューしたんですが、その現場をやって行く中でこの仕事を本格的にやりたいなって思うようになりました。

 

アクションを本格的に始められたきっかけはなんだったんですか?

坂口茉琴さん:もともと中学ぐらいの時にブレイクダンスをやっていて、その流れで高校生の時に身体を動かせるし楽しそうだからっていう理由で、一般向けのアクション教室に通い始めました。

そしたらその教室でたまたまアクション監督に出会って、一緒に練習するようになったっていうのが本格的にアクションを始めたきっかけですね。

 

身体を動かすのが好きだったのでしょうか。

坂口茉琴さん:そんなに運動が好きなわけではなかったと思います(笑)部活などに入ってたわけでもなかったので、みんなが部活に没頭する時間が私にとってはブレイクダンスだったってことですね。

 

どうやったらスタントマンになることができるんですか?

坂口茉琴さん:スタントマンってなろうと思ったら誰でもなれるし、技術の差はあれど名乗ろうと思ったら誰でも名乗れる職業だと思います。私の場合はアクション教室や練習会に参加して、現役のスタントマンやアクション監督と繋がれた事が大きなきっかけでした。

もちろん努力次第ですが、チャンスがあればそうした繋がりをきっかけにプロの現場に触れる機会が訪れるかもしれません。まずは何より女性スタントマンになりたい意志を現役の方に伝えてみてください

特にこれがないと女性スタントマンになれないと言うものはなくて、体操ができなくても、格闘技をやってなくても女性スタントマンになれるきっかけは誰にでもあります!私はいつでもお待ちしています!

 

覚悟していた苦節の期間

電動ドライバーを持つ坂口茉琴

スタントマンの方は事務所などに所属されて活躍されているんですか?

坂口茉琴さん:所属されている方もフリーの方もいますが、フリーの方が多い印象ですね。

現場に呼ばれるか呼ばれないかもその人の実力次第だったりとか、私みたいにたまたま縁が繋がって現場に出られるようになったりですとか、現場を続けていくというのは大変だと思います。

 

お仕事をするに当たって挫折はありましたか?

坂口茉琴さん:挫折ではないのですが、仕事の少なさに悩んだ時期はありました。男性だと、クローズやHiGH&LOWなど、いわゆる主役じゃないモブの人たちが大乱闘する作品がたくさんあるので、お仕事がコンスタントにあるんです。

一方で、女性の場合は主に女優さんの吹き替えとかになるので、どうしても分母が少ない印象です。私がスタント始めた時は私みたいに身長が小さい女優さんがアクションをして活躍するという作品があまり無かったので、「思うようにスタントダブルみたいな仕事はないかもよ」って女性スタントマンを目指す際に言われました。

近年では女性が活躍するアクション作品が増えてきて嬉しく思います。

※スタントダブル:スタントマンやが作品において危険な動きや複雑高度な動きを俳優の代理として顔が見えない形で演じること。

 

実際、危険なシーンを演じられるわけですが怪我をすることもあるのでしょうか。

坂口茉琴さん:危険な事をする事が多い職業なので、他の職業に比べたら怪我は多いです。痣とかは日常的に大きいのができたり、血が出たりとかはあるんですけど、私は今のところ大きい怪我はしていないです。でも、周りの先輩とかは骨折や靭帯を切ったりなどで手術したりしてる方もいます。あと危ないことや身体に負担がかかる事を繰り返しやっているので、首をちょっとおかしくしちゃって、そこから手足に麻痺が少し出てるみたいな方もいます。

今一緒に作品をやっているチームの中にも膝が悪い人が2人いて、コンクリートに膝から落ちちゃって膝の皿が粉砕してしまったりとか、膝の靭帯をやってしまって思うように走れないとか。どこかしら痛めている方が多いのは事実ですが、皆さん本当によく動くなっていうくらい普通にアクションしていて凄いなと思います(笑)

 

スタントマンをしていて、一番嬉しかった経験はなんでしょうか。

坂口茉琴さん:公開前の作品なんですが大作といわれる規模が大きい作品にスタントダブルとして関われたことですね。

また、『今際の国のアリス』っていうNetflixのドラマで土屋太鳳さんのスタントダブルをさせて頂いたんですが、そういうのを「見たよ!」って色んな方に言っていただけるのはすごく嬉しかったですね。

 

スタントマンの中にはどんなキャリアを歩んでいる人がいらっしゃるんですか?

坂口茉琴さん:私は映像制作の現場ではアクション部と呼ばれる部署にいます。

そこにはプレーヤーやスタッフとして動く女性スタントマン、スタントマン、アクションコーディネーター、アクション監督といった人がいます。アクションコーディネーターやアクション監督と呼ばれる人たちはアクションを構成したり、アクションシーン全体をまとめていくといった人たちです。

例えば『るろうに剣心』のアクション監督を務めた谷垣健治さんは、元々倉田アクションクラブ出身のスタントマンなのですが、ジャッキーが好き!アクションが好き!という気持ちだけで突き動いて、中国語もわからないのに1人で中国や香港に乗り込んでいったそうです。

そして海外の現場で沢山経験を積んで日本に帰ってきて、『るろうに剣心』や、『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』などのハリウッド作品のアクション監督をやられたりしています。
他にも、『キングタム』のアクション監督を務めた下村勇二さんもスタントマン時代は国内外で沢山の経験を積まれていました。若い時はかなり勢いのいいプレーヤーだったそうで、激しいスタントをしたりとか結構体を張った動きをされていたそうです。加えて編集の勉強等も積極的にしていたようです。

スタントマンからアクション監督になった方は沢山いますし、アクションコーディネーターやアクション監督にはならずにプレイヤーに専念している方も沢山います。

 

実際にお芝居をしていて、アクションの中でアクシデントはありますか?

坂口茉琴さん:意図せず当たってしまう事はあります。お互いの息が合わなかった時や間違えてしまった時など。
ただ、技術として実際に当てる事も多くあって、蹴りやパンチとかを実際に当てて、受けたり衝撃をうまく逃したりします。

ギリギリを狙うにしろ、攻撃を受けるにしろ、怪我しない怪我させないがアクションの原則なのでしっかりとした技術と相手との信頼関係が大事だと思います。

俳優さんが主役で周りがスタントマンの時は実際に当てた方がやりやすかったりお芝居的にもパワー感を出しやすかったりするので、俳優さん対スタントマンだと実際に当てる事が多い印象です。

 

スタントのお仕事の中で難しいと思うことはなんでしょうか。

坂口茉琴さん:私が最近よくやる事が多いのがスタントダブルなのですが、基本的にスタントダブルの場合って顔がバレないことが大切です。本役の方との境目が分からないように。動きの中でもカメラアングルに合わせて顔を隠さなきゃいけなかったりして、そこは難しいなと思います。

 

どんなことを意識していらっしゃいますか?

坂口茉琴さん:この間とかは、崖の上から転がり落ちるっていうスタントをしたんですが、撮影って私の気持ちとは関係なく、スケジュール通りにどんどん進んでいくので、その波にうまく自分の気持ちを合わせて行って本番に挑めるよう意識をしています。

また、すごく高い工場でのアクションは落下の危険性とかあるので、一つの物事に集中し過ぎちゃうと周りのものが見えなくなってしまうんです。なので、なるべく視野を広くして、その上で集中してっていうのを意識しています。

 

そのシーンに合わせてスタントマンさんも役者さんと同じように気持ちを作って入られるわけですもんね。

坂口茉琴さん:『今際の国のアリス』の時は、土屋太鳳さんと役の気持ちについて事前に擦り合わせる時間があったので、2人で同じ方向に向かって、同じイメージの中で動けるようにこのシーンはこうしていきたいよねというのを事前に話したりしていました。

 

役者さんと擦り合わせしていく中で難しいことってありますか?

坂口茉琴さん:土屋太鳳さんの演じる宇佐木柚葉のアクションを作る段階で、私の中でこういう感情で運んでいきたいというイメージは作っていたので、土屋さんに動きを伝える時に私のイメージも伝えて、土屋さんとすり合わせながら役を作っていけました。

今回のケースに関してはあまり苦労はしなかったんですが、もしこれが現場に行って土屋さんとコミュニケーションを取らずにいきなりアクションをやるとなると、難しかったと思いますね。

 

着地点が見えてないとやはり難しいんですね。

坂口茉琴さん:そうですね。映画ってワンカットワンカットのパズルのピースがつながって一つの作品になっていくのですが、アクションではそのピース1つ1つのカットにとても意味があると思うんです。

アクションシーンの中にもいろんなカットがあってテーマがあって。
このカットは歯を食いしばっている表情を見せたいとか、このカットは果敢に攻め込んでいるところを見せたいとか。

カットごとのテーマやシーン全体を通しての感情の流れがお互いに共有できていると良いなと思います。

 

スタントマンの存在を広めて、若手をもっと増やしていきたい

電動ドライバーを持つ坂口茉琴と男性

今後、坂口さんがキャリアを積み上げていかれる中でどうなっていくのが理想ですか?

坂口茉琴さん:スタント業界の中で若手不足が課題となっているので、まずは若い世代の方を増やせるように頑張りたいです。

そして、なかなか女性が主役のアクション大作映画って海外にはマーベル作品とか結構あるんですけど日本だと無いので、そういう作品が増やしていけたらいいなって思いますね。

 

者がいないのはとても深刻な問題ですね…。

坂口茉琴さん:今、私の先輩に当たる方々は40歳近い年齢やそれ以上の方が多いです。
みなさんジャッキー・チェンに憧れたり、好きなアクション映画があったりして、この業界に入ったそうです。
その方たちが若手の頃から長年業界を支え続けてくださり、今にいたる状態です。

私の世代もそうですが、それ以降の人たちってジャッキー・チェンみたいにアクションをやりたいって思えるきっかけになる作品が無かったからなのかもしれないですけど、なかなか居ないんですよね。居たとしてももう辞めちゃったりですとか。

長く続けてくれる若手の方が増えてくれたらいいなと思います。

 

男性が多い業界だと思うんですが、女性で活躍されている方はどれくらいいらっしゃるんですか?

坂口茉琴さん:女性は、パッと思いつく中で、第一線で活躍されているのは私含め5、6人しかいないと思います。本当に少ないです(笑)一方で男性は、スタントマンと名乗っている人はたくさんいますが、現場で常に活躍している人となると多く見て3、40人な気がします。

 

これから坂口さんがキャリアを積んでいく中で考えていることはありますか?

坂口茉琴さん:年齢によって体力だったり身体の衰えがあるので、ずっとプレーヤーとしてやり続けるのは難しいと思っています。

ですが、作品に関われていることがとても嬉しいので、プレーヤーとしてはもちろん、これからも自分の身体の変化に合わせて出来るだけ長くいい作品を残せていけたら良いなと思っています。

 

新しい世界に飛び込む時に気負う必要はない

坂口茉琴

最初にshabellという夢を応援するサービスを聞いた時にどういった印象を持たれましたか?

坂口茉琴さん:とても良いなと思いました。いわゆる、スタントマンって特殊な職業なので。スタントマンみたいにネットで調べてもいまいちどうやったらなれるのかわからない職業って結構あると思うんです。ピンとこないものにいきなり飛び込むのって結構勇気がいることな気がして、そこのワンクッションになれるのがshabellなのかなって思いました。

特に、スタントマンって映画を見ていても顔も見えないし、どんな人がいるかもわからないし、どんなことするかもわからないって方がほとんどだと思うので、アプリを通して実際にお話しをして、職業に対するポジティブな疑問とかネガティブな疑問をぶつけられるのはすごくいいなと思いました。

 

もし坂口さんの幼少期にこのアプリがあったらどんな使い方をされていますか?

坂口茉琴さん:自分が興味ある人の顔写真とプロフィールを見れるじゃ無いですか。とりあえずそれを漁って、その人の名前をネットで検索していろんな経歴とかを調べて、その上で誰にするか決めて相談した気がします(笑)

 

坂口さん宛に相談依頼が来たとき、相談者の方とどんなお話をしましたか?

坂口茉琴さん:1人の方は、アクションを続けていこうか悩んでるんですっていう方で。どんなとこに習いに行ってて、そこで習い続けていいのかみたいな悩み相談でした。

もう1人の方は、大阪にいる女子大学生の方で、今趣味としてすごいアクションが好きだからプロになりたいっていう気持ちもあるけど、東京に出る覚悟が持てなくてどうしたらいいですか?といった相談です。

でも、職業の面接とかに行ったときに「なかなか覚悟が持てなくて」って言えないじゃ無いですか。「ここに何しにきたんだ!」って受け取られてもおかしくないですし。そういう本音を実際働いている人に言えるアプリって貴重だなって相談を通して思いました。

 

坂口さんは、それに対してどんな答えを出されたんですか?

坂口茉琴さん:大阪在住の方に関しては、大阪から出てきたスタントマンもいるし、逆に大阪に戻ってスタントマンをやってる方もいるから、そういう人たちに連絡とってみるのも良いですよとお答えしました。

また、その方がどんなアクションが好きなのかを聞いて、例えば特撮に特化したチームはここなんで私の名前出してもらえるとスムーズに行けると思うので連絡してみるといいですよとお伝えしたりしました。その方は実際に連絡したみたいです!

 

今後坂口さんがこのアプリに期待することってありますか?

坂口茉琴さん:先程の女の子のこともそうなんですけど、本格的な面接となるとどうしても自分を売り込むことが重要視されるじゃないですか。shabellではそうじゃなくて、こういうことが不安で一歩踏み出せなくて、でもこういう仕事をやりたい気持ちはあるんです!みたいな、もっとその人の夢に対する複雑な思いだったりとかを打ち明けられる場所であって欲しいと思います。

いろんな人が利用して職業に対するプラスなイメージも、マイナスなイメージもぶつけて、現役の方からアンサーが返ってくるという貴重な場として盛り上がって欲しいですね。

 

未来ある若者にメッセージをください!

坂口茉琴さん:いろんなところでスタントマンとして危険な仕事をやるにあたって、どんな覚悟を持ってスタントマンになったんですか?とよく聞かれるんですが、私自身はそんなすごい強い覚悟を持ってスタントの世界に飛び込んだわけではないです。
すごく楽しそうだったからというのがきっかけです(笑)。

ただ、その世界に踏み込んでから自分なりに責任感がついたりとか、やり遂げたいっていう思いが強くなっていったので、新しい世界に飛び込む時にそんなに頑張らなきゃとか覚悟決めなきゃとか、気負わなくていいと思うっていうのはお伝えしたいですね。

 

勇気を持って一歩行動した人が夢を叶えられるんですね!

坂口茉琴さん:始めちゃえば、その世界にいる人たちが支えてくれて、だんだん自分を巻き込んでいってくれるので。とりあえずその世界に入っちゃう!とりあえず」っていう感覚で良いと思います。その感覚でいっちゃえば良いことあるかもよ!と伝えたいです。

***

今回は女性スタントマンとして活躍される坂口茉琴さんに取材させていただきました。

坂口さんは人との縁が繋がりから女性スタントマンとして活躍するきっかけを掴まれています。新しい世界に飛び込むときは「とりあえず」という感覚でいい。頑張らなきゃ!っていう覚悟は持たずにその世界に入ることが大事ということを坂口さんはおっしゃっています。

スタントマンや女性スタントマンはあまり身近にいない職業かもしれません。映画やドラマでは見かけることはありますが、そう簡単に会うことはできませんし、実際のところどんなことを仕事としているのかは知らなかった人も多かったと思います。

shabellbaseでは、今後もたくさんの職種の方のリアルなお話を聞き、あなたのなりたい未来を応援します。

坂口茉琴さん
さかぐち まこと|スタントウーマン


1996年生まれ。神奈川県出身。
日本を代表するアクション俳優であり、監督の坂口拓を師匠に持つ。
2014年に『TOKYO TRIBE』で強烈なデビューを飾り、注目を浴びた。
その後、『極道大戦争』や『キングダム』、『今際の国のアリス』などの話題作に数々出演している。

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