近年、「パパの育休」、つまりお父さんが赤ちゃんの出産後に育児のため休むことが大きく注目されています。
その背景には、社会の意識や制度の変化があります。
かつて日本では、男性が育児休業を取得する割合はとても低く、10年ほど前は数パーセント程度に過ぎませんでした。
しかし最新の調査では、2023年度の男性育休取得率は30.1%にまで上昇し、前年の17.13%から大幅に伸びています。政府が掲げていた「2025年までに男性育休取得率30%」という目標を前倒しで達成したことになり、社会全体で“パパも育児に参加する”流れが加速しています。
このように取得率が上がった一方で、育休の長さについて課題も残っています。実は取得した男性の半数以上が「2週間未満」の短い育休しか取っていないのが現状です。一方、女性の育休取得率は8割以上で推移しており、多くのママは出産後1年ほど育休を取るのが普通です。この差は依然大きいものの、徐々に縮まりつつあります。
これまで「育児は母親の役割」という考え方が強かった日本ですが、最近では「夫婦で育児をするものだ」という認識が広まりつつあります。
男性が育児に関わることで、ママの負担が減り、家族全体の幸せや子どもの成長にも良い影響を与えると期待されています。
本記事では、そんな注目の「産後パパ育休」制度について、解説します。2025年の制度改正で何が変わるのか、育休中にもらえるお金(育児休業給付金)や手取り額の話、そして実際に育休を取ったパパたちの事例や、よくある疑問へのQ&Aまで、ポイントを押さえていきます。ぜひ最後まで読んで、パパの育休がもたらすメリットを一緒に考えてみましょう。
「産後パパ育休」ってどんな制度?
出生時育児休業とは?
「産後パパ育休」は正式には「出生時育児休業」といい、2022年の法改正で新しく始まった制度です。
簡単に言うと、赤ちゃんが生まれた直後の時期にパパが取ることのできる特別な育休のことです。具体的には、赤ちゃんが生まれてから8週間(約2か月)以内に、合計4週間(28日間)までお休みを取ることができます。この4週間は連続で休んでもいいですし、2回まで分けて取得することもできます。「産後すぐに2週間休んで育児に参加し、少し職場復帰した後でまた2週間休む」といった柔軟な取り方も可能なのです。
従来の育児休業との違い
では、従来の一般的な「育児休業」(育休)と何が違うのでしょうか?
通常の育児休業は、男女問わず子どもが1歳になるまで(条件によって最長2歳まで)取得できる長期の休業です。
一方で産後パパ育休は赤ちゃんが生まれてすぐの時期限定で取得する短期の休業であり、お父さんが出産直後の育児に積極的に関われるように設計されています。また大きな特徴として、産後パパ育休中は会社との取り決めによって一部就業することも可能です。
通常の育児休業中は原則仕事をしてはいけませんが、産後パパ育休では「週◯日は在宅勤務する」「緊急の業務がある日は数時間だけ働く」といった調整が労使協定のもとで許されます。これにより「仕事を完全に休むのは難しい…」というパパも育休を取得しやすくなっています。
育児休業の2025年の改正ポイントは?
2025年の改正ポイントについても押さえておきましょう。2025年4月から、産後パパ育休を経済的により取りやすくするための新しい給付制度が始まります。
その一つが「出生後休業支援給付金」という新制度です。これは後述する「育児休業給付金」に上乗せして支給されるもので、一定の条件(例えば産後パパ育休を合計2週間以上取得することなど)を満たすともらうことができます。
改正後は、この新しい給付金のおかげで産後パパ育休中にもらえるお金が育休前の手取り額の実質100%(=フルサラリー相当)になると新聞やニュースでも報道されています。つまり「育休を取ると収入が減るから心配…」という不安がかなり解消される、画期的な改正なのです。
パパが育休を取得できる条件や期間、申し込みの仕方
「自分も産後パパ育休を取りたい!」と思ったとき、誰でも取れるのか、どうすれば取得できるのかは気になるところですよね。ここでは、取得の条件や期間、申し込み方法についてシンプルに紹介します。
育休を取得できる人
基本的に会社で働いているパパであれば、正社員でも契約社員・派遣社員でも産後パパ育休を取得できます。
育児休業は正社員だけの特権ではなく、法律で「雇用形態に関わらず育休を取得できる」と定められているからです。ただし、いくつか条件があります。例えば「その会社で一定期間働いていること」や「育休が終わった後も引き続き雇用される見込みがあること」といった条件です。一般的には、今の職場で1年以上働いていて、かつ育休終了後も契約が続く場合は育休を取れると考えてよいでしょう。
育休を取得できる期間
産後パパ育休の場合は、子どもが生まれてから8週間以内の好きなタイミングで、最大4週間分取得できます。
例えば予定日に合わせて「出産予定日から2週間休む」と申し出ておき、実際の出生日に開始日を調整することも可能です。なお、赤ちゃんの誕生日から8週間を過ぎてしまうと産後パパ育休としては取得できなくなるので注意が必要です。一方、通常の育児休業は原則として赤ちゃんが1歳になるまでいつでも取得できます。パパが産後パパ育休を取った後に、引き続き通常の育児休業を取ることも可能です。例えば「生後8週以内に2週間の産後パパ育休+その後さらに半年間の育児休業」といった形で、制度を組み合わせて利用することもできます。
育休の申し込みの仕方
育休を取得するには、会社への申し出(申請)が必要です。
具体的には「◯月◯日から◯月◯日まで育児休業を取得したいです」ということを、会社の人事担当者や上司に伝え、所定の書類を提出します。産後パパ育休の場合は、休みを始める日の2週間前までに申し出る必要があります。通常の育児休業は1か月前までとなっているので、産後パパ育休のほうが急なタイミングでも申請できるよう配慮されています。出産日は予測が難しいこともありますが、予定日がわかり次第早めに会社に相談しておくと安心です。
会社には育休の取得を拒否する権利は基本的にありません(法律で育休取得の権利が保障されています)ので、遠慮せずに希望を伝えましょう。
育児休業給付金と新制度で手取りはどうなる?
育休を取るにあたって、やはり「お給料(手取り)はどうなるの?」というお金の不安はつきものです。
ここでは、育休中にもらえるお金の種類と、そのだいたいの金額について解説します。キーワードは「育児休業給付金」と「出生後休業支援給付金」です。
育児休業給付金(育休手当)とは
育児休業給付金は、育休中の収入をサポートするために国(雇用保険)から支給されるお金です。会社からの給料は基本的に育休中はストップしますが、その代わりにこの給付金を受け取ることができます。
金額は、休業前の給料の67%に相当する額(額面の67%、手取り換算で約8割)と定められています。例えば休業前の月給が30万円(額面)だった人なら、育休手当として毎月約20万円が支給されるイメージです。社会保険料や所得税が免除されるため、額面の67%でも実際の可処分所得(手取り)は通常働いている時とほぼ同じくらいになります。
産後パパ育休の場合の給付金
お父さんが産後パパ育休を取得した場合も、基本的には上記の「育児休業給付金」が適用されます。
ただし正確には、パパが取得する出生後8週間以内の休業については「出生時育児休業給付金」という名称で扱われます(制度上の名前が違うだけで中身は同じく給料の67%相当です)。2025年3月までの制度では、産後パパ育休中も給付率は67%で、手取りにすると普段の8割程度の収入となります。
2025年4月からの新しい支援策(出生後休業支援給付金)
ところが、2025年4月の改正によって、この産後パパ育休中のお金事情がさらに良くなります。
新設される「出生後休業支援給付金」が、上述の育児休業給付金に加えて支給されるからです。この支援給付金は給料の13%相当が追加で支給されるもので、育児休業給付金(67%)と合わせると合計で給料の80%に達します。給料の80%と聞くと「え、満額じゃないの?」と思うかもしれませんが、ここでいう80%はあくまで額面上の割合です。一般的に、額面の80%はちょうど通常時の手取りほぼ100%に相当します。
つまり、新制度を使えば産後パパ育休中の手取り額は実質フルに近い水準になり、「収入が減って生活が苦しい」という心配をほとんどしなくて済むようになります。
出生後休業支援給付金を受け取るための要件
支援給付金を受け取るためにはいくつか要件がありますが、主なものは「産後パパ育休を合計2週間以上取得すること」です。
例えば出産後すぐ1週間だけ休んだ…という場合は対象外ですが、2週間以上しっかり育休を取ればその分支給されます。また、育休中は勤務先からお給料が出ないことが前提なので、会社から給与を受け取らずに休む必要があります(もし会社から給料が出ていると給付金が減額・不支給になる場合があります)。基本的には育休中は国の給付金だけで生活する形となります。
実際に産後育休を取ったパパたち・支援する企業の事例
制度やお金の話を一通り説明しましたが、「実際に育休を取ったパパはどんな体験をしているの?」という点も気になりますよね。ここでは、実際に育休を取得したパパや、それを支えた企業の事例をいくつか紹介します。身近な先輩パパたちの声から、育休のリアルなメリットが見えてきます。
事例1: 子育ては2人でやるものと気づいたパパ(6か月の育休取得例)
ある男性の方は、第三子の誕生と同時に6か月間の育児休業を取得しました。第一子・第二子のときは取得していませんでしたが、第三子では「さすがに妻の負担が大きすぎる」と感じ、育休を取ることを決意したそうです。
育休の相談をした時、上司はすぐに賛成してくれたとのことで、職場の後押しも得て実現しました。育休で得られたものとして彼は「子育てや家事は母親の役割ではなく、夫婦二人が主体的にやるべきこと」という自覚だと語っています。男性側がこの認識を持つことで、夫婦だけでなく家族全体の幸福度が大きく変わるのでは…と感じたそうです。
実際、「育児は女性がやるもの」という古い考えが少しずつ薄れ、夫婦で協力して育児・家事をすることが当たり前になれば、家庭内の絆も深まりますよね。半年間の育休取得は、周囲にも「男性が長めの育休を取ること」の良いモデルケースとなり、社内でも高く評価されました。
事例2: パパ社員に1年間の育休を促した企業(メーカーの取り組み)
住宅設備メーカーの「サンワカンパニー」では、商品開発を担当する男性社員が第一子誕生に合わせて1年間の育児休業を取得した事例があります。彼は「子どもが小さいうちから多くの時間を一緒に過ごしたい」「妻一人に負担が偏るのは避けたい」という理由で育休取得を決意しました。職場の同僚からも「いいね!」「頑張って」とポジティブな反応が多く、会社も人員を計画的に配置するなど全面的な協力が得られたそうです。
育休を取って良かったこととして、「夫婦で納得しながら子育てできている」「心に余裕を持って我が子に向き合えている」という声が挙がっています。子育てにしっかり関わったことで、赤ちゃんの成長を見逃すことなく、一日一日を大切に過ごせたといいます。会社の「協力的な姿勢」もあり、職場にスムーズに復帰できたこの事例は、「男性が育休を取るのが当たり前」という空気づくりにもつながりました。
2社とも、会社の協力的な姿勢があっての円滑な育休取得ですが、どの男性も基本的に「妻一人に負担がかかりそう」と感じて行動に移すなど、「夫婦で共に育児をすべきだ」という強い思いを持っていました。まだ「男性は仕事、育児は女性」といった昔ながらの価値観が残る日本ですが、このような意識を持つパパやそれを支援する企業が増えれば、社会全体の価値観もきっと変わっていくでしょう。
10月1日より、産後パパ育休制度(出生時育児休業)が施行されましたね!今日は、当社の育休状況と、育休取得中のパパ社員の声…
よくある疑問や不安へのQ&A
最後に、パパの育休に関して多くの人が感じる疑問や不安について、Q&A形式で答えてみます。制度を知っていても、いざ自分のこととなると色々な心配が出てくるものです。一つ一つ解消していきましょう。
Q: 正社員じゃなくても(非正規社員や派遣社員でも)産後パパ育休は取れるの?
A: はい、取れます。労働基準法や育児・介護休業法により、雇用形態に関係なく育休を取得できる権利が保障されています。パートやアルバイト、派遣社員など非正規雇用でも、一定の条件(先述のように勤務期間や契約更新の見込みなど)を満たせば産休・育休を取得可能です。ただし、契約社員・派遣社員の場合は「契約が育休終了後も続いていること」が条件になる点には注意してください。例えば契約期間が短く、子どもが1歳になる前に契約が切れてしまうような場合は、会社が育休取得を拒否できるケースもあります(労使協定で定めている場合)。まずは自分の雇用契約を確認し、会社に相談してみましょう。
産後も職場復帰して仕事を続けたいけど、パートだし無理かな……なんて思っていませんか?非正規社員にも産休・育休をとる権利が…
Q: 育休を取ったら職場で不利になったり、出世に響いたりしないか心配…
A: 法律上、育休取得を理由に解雇や降格など不利益な扱いをすることは禁止されています。そのため、育休を取ったことで昇進できなくなったり評価が下がったりする心配は基本的にありません。最近では男性の育休取得を前向きに評価する企業も増えており、育休経験がキャリアのプラスになるケースも出てきています。安心して育休を取得してください。
パパの育休が家庭と社会にもたらす変化
「産後パパ育休」を中心に、パパの育児休業について解説してきましたが、いかがでしたか?パパが育児に積極的に関わることは、家族にとっても社会にとっても多くのプラス効果をもたらします。家庭では、ママとパパが協力して子育てすることで、お互いの負担が軽減され夫婦の絆が深まります。ママにとっては身体的・精神的な負担が軽くなり、産後うつの予防や職場復帰のしやすさにつながります。子どもにとっても、パパと過ごす時間が増えることで情緒が安定し、親子の信頼関係が強まると言われています。パパ自身も、子育てを通じて新たな成長や喜びを感じるでしょう。仕事だけでは得られない**「人生における貴重な時間」**になるはずです。
社会全体で見ても、男性が育休を取ることは大きな意味を持ちます。育児や家事の負担が女性に偏らなくなることで、女性がキャリアを諦めずに済み、職場で活躍し続けられます。これは男女平等の推進だけでなく、労働力の確保にもつながります。また、育児休業制度の充実は少子化対策の一つとも位置づけられています。パパも子育てに参加する家庭が増えれば、「子どもを産み育てやすい社会」に一歩近づくでしょう。実際、政府も男性の育休取得促進を重要な政策として掲げ、企業への働きかけや法整備を進めています。
もちろん、制度を整えるだけでなく、一人ひとりの意識改革も大切です。職場で「男性が育休を取るのは当たり前」という雰囲気を作り、周囲が温かくサポートすること。家族や友人同士で育休の話題を共有し、「いいね、それ大事だよね」と共感し合うこと。そうした積み重ねが、やがて大きな波となって社会を変えていきます。
これからパパになる人、いつかパパになるかもしれない人、そして周りにパパになる人がいる全ての方へ。産後パパ育休は、家族の未来への投資です。パパが育児に関わることで、子どもは愛情をたっぷり感じて育ちますし、ママも笑顔になります。その結果、家族みんながハッピーになり、仕事にも良い影響が出て、社会も元気になる。そんなポジティブな連鎖を生むのが「パパの育休」なのです。
ぜひ周りの理解を得ながら勇気を持って一歩踏み出してみてください。育児はママだけのものじゃない、パパも一緒に歩むもの。産後パパ育休という制度を上手に活用して、かけがえのない家族の時間をぜひ充実させてください。あなたのその選択が、きっと家庭を、そして社会を前向きに変えていく力になるでしょう。