職場でふと時計を見ると、まだ定時ちょうど。
そのとき、同僚が「お先に失礼します!」と笑顔で帰っていく。
そんな光景を見て、「あれ? あの人、みなし残業ついてるのに定時で帰るの?」と思ったことはありませんか?
なんとなく「みなし残業があるなら、その分は働かないとズルい」と感じてしまう人も多いかもしれません。
でも、ちょっと待ってください。それって本当に「ズルい」ことなのでしょうか?
今回は、「みなし残業があるのに定時で帰るのは悪いことなのか?」というモヤモヤを、わかりやすくひも解いていきます。
みなし残業とは?制度のしくみをもっと詳しく解説
「みなし残業」や「固定残業代」という言葉を聞いたことがある方は多いと思いますが、実際にどういう制度なのか、しっかり理解している人は意外と少ないかもしれません。ここでは、その仕組みを中学生でも理解できるように、やさしく説明していきます。
みなし残業は「残業代を先にまとめて払う」制度
まず、みなし残業とは、正式には「固定残業代制度」と呼ばれるものです。
これは、会社があらかじめ「このくらいは毎月残業があるだろう」と見込んで、その分の残業代を基本給とは別に、毎月の給料に含めて支払うしくみです。
たとえば、求人情報に「月給25万円(うち20時間分の固定残業代3万円を含む)」と書かれていた場合、この3万円が「みなし残業代」です。この場合、実際にその月に20時間残業をしてもしなくても、3万円は毎月もらえることになります。
つまり、残業してもしなくても、みなし残業の時間までは「働いた」とみなして、給料にその分が含まれているわけです。だから「みなし残業」と呼ばれているのですね。
残業がみなし時間を超えた場合は?
ここで大事なのが、「じゃあ、もしみなし残業時間を超えて働いたら?」ということです。
答えはシンプルで、その分の残業代は別に追加で支払わなければならない、というのが法律の決まりです。
たとえば、月20時間分の固定残業代が支給されている人が、その月に30時間残業した場合は、超えた10時間分の残業代は別途支払う必要があります。
逆に言えば、会社が「みなし分を超えても、追加で残業代は出しません」と言っているなら、それは違法です。
みなし残業は会社の都合?それとも働く人のメリット?
この制度を使うと、会社にとっては「残業代が毎月いくらになるか」があらかじめ決まっているので、コストの見通しが立てやすくなります。人件費をコントロールしやすいというメリットがあるのです。
一方で、働く側からすると、「効率よく仕事を終わらせて定時で帰れば、残業しなくても残業代分がそのままもらえる」というメリットがあります。時間内に集中して働けば、そのぶん自分の時間も持てるし、手取りも変わりません。
しかし、それはあくまでも「本来の正しい運用」がされている場合に限ります。もし、毎月当然のように長時間の残業をさせられていて、それがみなし残業時間を超えても追加の残業代が支払われないのであれば、それはブラックな働き方です。
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みなし残業なのに定時で帰るのが悪いと思われる理由
では、どうして「みなし残業がついているのに定時で帰るのはおかしい」と感じる人がいるのでしょうか?
この感覚の背景には、職場の雰囲気や、私たちが無意識のうちに持っている「働くこと」に対する価値観が大きく影響しています。
「長く働く=がんばっている」という根強いイメージ
日本の職場には、いまだに「長く会社にいること」が評価される文化が残っています。
たとえば、夜遅くまで残っている人に対して、「あの人、いつも頑張ってるね」と言う人はいても、定時でさっと帰る人に「仕事が早くてすごいね」と声をかけることは少ないかもしれません。
これは、目に見える「時間の長さ」で仕事ぶりを評価してしまう習慣が根付いているからです。
そのため、みなし残業代が含まれているにもかかわらず、定時で帰る人を見ると、「まだ残業時間分も働いていないのに帰るなんてズルいのでは?」というような、なんとなくの違和感を覚える人も出てくるのです。
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「給料は働いた時間に比例するべき」という感覚
多くの人は、「給料=働いた時間や労力の対価」という考えを持っています。
そのため、みなし残業のように「働いていない可能性のある時間分の給料が出る」という仕組みに対して、無意識に違和感を持ってしまうことがあります。
とくに、時間に対してシビアな職場や、業務量が不公平に感じられるような環境では、
「私は毎日30分も残業してるのに、あの人は定時に帰って同じ給料なんておかしい」といった不満が生まれやすくなります。
これは「お金の公平さ」よりも、「頑張りの見え方の不公平さ」によって起こる感情とも言えるでしょう。
仕事の成果より「姿勢」が評価されがち
本来であれば、仕事の評価は「どれだけ成果を出したか」「どんな貢献をしたか」で判断されるべきです。
しかし、現実には、「残っている=やる気がある」「帰るのが早い=仕事が少ない or 楽をしている」というように、行動の“見た目”で評価されてしまうことも多くあります。
こうした「頑張っているように見せること」が重視される文化では、みなし残業代が含まれているのに定時で帰る人は、「制度をうまく利用して楽をしている」と見なされてしまうことがあるのです。
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みなし残業でも定時で帰るのは“悪”ではない
「みなし残業があるんだから、定時で帰るのはありえないでしょ?」
そんな声を聞いたことがある人もいるかもしれません。ですが、この考え方には大きな誤解があります。
そもそも、みなし残業制度は「必ず残業しなければならない制度」ではありません。
これはあくまで、「最大〇時間までは残業があっても、その分はあらかじめ給料に含めて払いますよ」という仕組みにすぎません。
たとえば、「月に20時間分の固定残業代を含む」と書かれていた場合、それは“20時間までの残業代を、最初からまとめて支給している”という意味です。
ここで大切なのは、“その20時間、実際に働かなくてもいい”という点です。
つまり、実際の残業時間がゼロであっても、制度的にはまったく問題ないということ。
それどころか、時間内に業務をきちんと終わらせて、毎日定時で帰っているのなら、むしろとても理想的な働き方だといえます。
定時で帰ることは「ズルい」ことではない
みなし残業制度が正しく使われている限り、働いても働かなくても、みなし分の残業代は支給されます。
これを「ズルい」と感じる人がいるのは、「給料は働いた分だけもらうものだ」という感覚が根強いためです。
でも、実際には、「時間内で仕事を終える能力」も立派なスキルのひとつ。
効率よく進めるために事前に段取りを整えたり、ムダな作業を減らしたり、周りと協力しながら進めている人も多いはずです。
そうやって、同じ仕事を短い時間で終わらせているのだとしたら、それはズルではなく、工夫と努力の結果です。
残業が少ない=悪?という時代はもう終わり
これまでの日本社会では、「長く働くこと」が美徳とされてきました。
でも今は、働き方改革の流れもあり、「時間ではなく成果で評価する」方向へと少しずつ変わってきています。
実際、多くの企業では「残業時間の削減」が経営目標として掲げられていますし、国も企業に対して「長時間労働の是正」を強く求めています。
また、健康面のリスクや、ワークライフバランスの観点からも、残業は少ない方が望ましいという考え方が主流になってきています。
「ダラダラ長く働くこと=頑張っている」ではなく、
「短い時間で成果を出すこと=優秀である」という価値観へと、社会全体が変化しているのです。
だからこそ、みなし残業制度のもとであっても、定時で帰ることを「悪いこと」として考える必要はまったくありません。
むしろ、定時で帰れる働き方こそ、これからの時代に合ったスマートな働き方なのです。
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問題なのは「みなし残業」を悪用するケース
ここまでお話ししてきたように、本来のみなし残業制度は、「〇時間までの残業代をあらかじめ給料に含めて払う」という、あくまで“働く人にも会社にも便利な仕組み”のはずです。
しかし、現実には、この制度を正しく運用せず、企業側が一方的に得をするように悪用しているケースも少なくありません。
その結果、「みなし残業」と聞くだけで、なんとなくブラックなイメージを持つ人も多くなっているのです。
実際によくあるみなし残業の“悪用”のパターン
たとえば、求人票や雇用契約書に「月20時間分の固定残業代を含む」と書かれていたとします。
これはつまり、「20時間を超えた分の残業が発生したら、そのぶんの残業代は追加で払います」という約束になっているはずです。
しかし現実には、
・実際には毎月30時間、40時間といった長時間の残業が発生しているのに、その追加の残業代が支払われない
というケースがあとを絶ちません。
このような運用は明確に違法です。
本来、労働基準法では、残業が発生した場合にはその時間に応じた割増賃金を支払うことが義務づけられています。
みなし分を超えて働いた時間については、それに見合った残業代をきちんと別途で支払う必要があります。
なぜこのような問題が起きるのか?
その背景には、労働時間の管理がずさんだったり、従業員が声を上げにくい職場の雰囲気があったりすることが考えられます。
「うちの会社はそういうものだから」「みんな我慢してるから」と、半ばあきらめてしまっている人も多いのが実情です。
また、みなし残業代が「給料の中に含まれている」という表現も、誤解を生みやすいポイントです。
見かけ上の月給が高く見えても、実はその中に多くの残業代が含まれていて、実質的にはかなり安い時給で働かされている、ということもあります。
つまり、制度そのものに問題があるのではなく、運用のしかたに問題があるということです。
「定時で帰る人」が悪いのではなく、「違法な働かせ方」が本当の問題
ここで改めて強調したいのは、
定時で帰っている人が“ラクをしている”のではなく、みなし残業の本来の使い方に沿った働き方をしているだけだということです。
問題にすべきは、その制度を都合よく使って、長時間労働をさせながら正しい賃金を払わない企業の姿勢の方です。
そして、こうした違法な働かせ方を「普通」と思ってしまうような社会の空気もまた、見直していく必要があります。
みなし残業制度は、本来「働く側にもメリットがある仕組み」のはずです。
だからこそ、制度を正しく理解し、正しく使うことが大切なのです。
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定時で帰れる人が「ズルい」んじゃない。変えるべきは、働き方の価値観
みなし残業がついているのに定時で帰る――。
その行動は、制度的にも、そしてモラルの面から見ても、まったく悪いことではありません。
むしろ、「時間内にやるべき仕事をしっかり終えて、自分の時間に戻る」という働き方は、とても健全で、これからの時代にふさわしい姿です。
それなのに、「あの人はラクをしている」「ズルい」と感じてしまうのは、私たちの中にまだ根強く残る、「長く働く人=えらい」という古い価値観のせいかもしれません。
でも、本当に目指すべき職場とは、みんなが無理をせず、効率よく働き、自分の時間や家族との時間も大切にできる環境ではないでしょうか。
誰かが早く帰る姿を見てモヤモヤするのではなく、「自分もあんなふうに働きたい」と思えるような、前向きな空気がある職場こそ、きっともっと気持ちよく働けるはずです。
定時で帰れる人がズルいのではなく、誰もが定時で帰れるようになることが、これからの働き方にとって大切な目標です。
「みなし残業なんだから残業すべき」ではなく、「みなしでも残業せずに帰れるなら、それがベスト」という考え方にシフトしていくこと。
そうした価値観のアップデートが、働く人一人ひとりの暮らしを豊かにし、企業にとっても持続可能な未来につながっていくのではないでしょうか。
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